肉のさばき方にイチャモンをつけてみる。ちょっと説明が足りてないぜ?

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肉のさばき方って、よく「繊維に逆らって切ればいい」と説明されていますよね。それだけ覚えれば十分なんですか。

odin
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基本としては間違っていません。ただ、それだけでは説明が足りません。肉は部位、グレード、用途、売り方によって、切り方の正解が変わります。

肉のさばき方について、昔の記事で少しイチャモンをつけたことがあります。元になったのは、肉のハナマサで大きな肉を買う話題の記事でした。大きい肉を買えばグラム単価が安くなる。自分で切ればお得に食べられる。そういう内容自体は、僕も大きく間違っているとは思いませんでした。

ただ、肉に関しては少しうるさいところがあるので、読んでいて「そこはもう少し説明が必要なんじゃないか」と感じた部分がありました。肉の切り方というのは、単純に包丁を入れればいいという話ではありません。どの部位なのか、どの程度整形されているのか、肉質はどうなのか、何に使うのか、そして売る側なら歩留まりをどう考えるのか。そういうものが全部からんできます。

この記事では、昔の自分の文章を残しつつ、今読んでも分かりやすいように整理し直してみます。結論から言えば、肉のさばき方は「繊維に逆らって切る」だけでは足りません。それは基本ではありますが、実際には肉のグレード、部位、脂やスジの入り方、そして最終的にどう食べるかによって、切り方の考え方は変わります。

大きい肉ほど安い理由

まず、大きな肉ほどグラムあたりの単価が安くなる理由についてです。これは難しい話ではなく、いちばん単純に言えば、手間がかかっていないからです。

大きいブロックのまま売る場合、店側は細かく切り分けたり、きれいに整形したり、パックに詰めたりする手間をかなり省けます。もちろん、冷蔵設備、電気代、保管場所、建物の費用などはかかります。ただ、それらは売れても売れなくても一定程度かかる費用です。商品がよく回れば、1商品あたりの負担は下がります。

つまり、大きい肉が安いのは、魔法のようにお得だからではありません。売る側の作業工程が少ないから安く見えるわけです。

ただし、ここで注意が必要です。大きい肉を買ったからといって、必ずしも最終的に得をするとは限りません。なぜなら、そこから自分でスジを取ったり、脂を削ったり、使いにくい部分を分けたりする必要があるからです。

ブロック肉は、買った重量がそのまま食べられるわけではない

牛肉でも豚肉でも、大きなブロックを買うときに見落としやすいのが歩留まりです。

歩留まりというのは、ざっくり言えば、買った肉のうち実際に使える部分がどれくらい残るかという考え方です。たとえば1キロのブロック肉を買っても、スジや余分な脂、硬すぎる部分を取っていくと、実際に料理に使いやすい部分はかなり減ることがあります。

ここを考えずに「大きい肉は安い」とだけ見てしまうと、安く買ったつもりが、きれいに整形された肉を買うのとあまり変わらなかった、あるいは逆に高くついた、ということもあります。

昔の記事でも書きましたが、肉を食べられる状態、つまり精肉として使いやすい状態にするには、かなりのトリミングが必要です。この作業を整形といいます。同じ部位でも、どの程度きれいに整形されているかで単価は変わります。きれいに整形されている肉が高いのは、単に見た目がよいからではなく、そこに手間と歩留まりの問題が含まれているからです。

肉の部位は、名前だけでは判断できない

肉の話でややこしいのは、同じ牛肉でも部位によって性質がまったく違うことです。

たとえばモモ肉とひとくちに言っても、内モモ、外モモ、マル、ラムイチなど、細かく見ればいろいろあります。外モモはグレードにもよりますが、基本的には硬めの部位です。ステーキ向きかと言われると、僕ならあまり選びません。煮込みにするか、薄くスライスして使う方が向いていると思います。

内モモも、見た目にはよさそうに見えることがありますが、肉質としてはやや硬めです。反対に、モモの中でもラムイチやマルは、うまく扱えばステーキにできる部分も取れます。

つまり、肉は「モモだからこう」「ロースだからこう」と単純に決められるものではありません。同じ部位の中にも、柔らかいところ、硬いところ、スジが強いところ、脂が多いところがあります。

肉のさばき方を考えるなら、まずその部位の中身をよく見る必要があります。

「繊維に逆らって切る」は基本。でもそれだけでは足りない

肉の切り方としてよく言われるのが、「繊維に逆らって切る」という説明です。これは基本としては間違っていません。

肉の繊維に沿って長く切ると、噛んだときに硬く感じやすくなります。逆に、繊維を断ち切るように包丁を入れると、噛み切りやすくなります。だから、ステーキや焼肉、スライス肉を扱うときに、繊維の方向を見ることはかなり大事です。

ただ、ここで終わらせると説明不足です。

肉というのは、部位によって繊維の流れが単純ではありません。ひとつのブロックの中でも、繊維の向きが変わっていたり、スジが入り込んでいたり、脂の入り方が違っていたりします。だから、「繊維に逆らって切る」と言っても、どこを基準に見るのか、どの部分を分けるのか、どこまで整形するのかで結果が変わります。

ここが、肉屋の腕の見せ所です。

売るための切り方と、自分で食べるための切り方は違う

ここは、元記事で僕が一番言いたかったところかもしれません。

肉のさばき方は、お店によってかなり違います。基本はあります。ただし、実際の現場では、売り方によって切り方を変えます。

たとえば、柔らかくてうまい部分だけを取り分けることは、技術的にはそれほど難しくありません。問題は、そのあとに残る硬い部分や脂の多い部分をどうするかです。

販売側は、そこまで考えなければなりません。柔らかい部分だけを高く売って、残りを全部煮込み用にすればいいかというと、そう簡単ではありません。カレー用や煮込み用の角切りが大量に売れるならよいですが、現実にはそんなに都合よく売れないこともあります。

だから、少し硬い部分を上質な部位と合わせて切ることもあるでしょう。そのかわり単価を少し落とすこともあります。完全に分けて、用途ごとに価格差をつけることもあります。

つまり、肉の切り方には、食べやすさだけでなく、売り方、原価、歩留まり、在庫処理まで関係してきます。

自分で食べるだけなら、良いところだけを選んで使えばいいかもしれません。でも、店で売るとなるとそうはいきません。ここが、家庭で見る肉のさばき方動画と、実際の精肉現場の違いだと思います。

牛肩ロースや豚肩ロースは、見た目以上に面倒な部位

肩ロースという部位は、名前だけ聞くと扱いやすそうに見えるかもしれません。しかし、実際にはかなり面倒な部位です。

牛肩ロースは大きな部位で、細かく分けるといくつもの部分に分かれます。中には、いわゆる「ざぶとん」や「クラシタ」と呼ばれるような良い部分もあります。ただ、その一方で、硬かったり脂が多かったり、使いにくい部分も出てきます。

だから、肩ロースを小割りにすればするほど、良い部分と使いにくい部分がはっきり分かれてきます。良い部分だけを取れば見栄えはしますが、残った部分をどう売るか、どう使うかという問題が出てきます。

豚肩ロースも同じで、そのままトンカツ用に切ったり、チャーシュー用に使ったりするのが一般的です。ネック側に近づくほど硬くなりやすいので、薄切りや小間切れ、ミンチ材に回すこともあります。

こういう話は、単純な「肉の切り方」だけでは説明しきれません。

豚バラは牛肉ほど繊維に神経質にならなくてもいい

豚バラについても少し触れておきます。

豚肉は、牛肉に比べると全体的に肉質が柔らかいです。もちろん部位や個体差はありますが、牛肉ほど繊維の方向に神経質にならなくてもよい場面が多いと感じます。

薄くスライスして使うなら、だいたいの目なりがそろっていれば十分なこともあります。角煮のように煮込む場合なら、繊維の向きよりも、火の入り方や脂の抜け方の方が重要になることもあります。じっくり煮込めば、肉はほろほろになります。

だから、牛肉と豚肉を同じ感覚で説明すると、少しズレることがあります。肉の種類によって、注意すべきところは変わります。

肉のグレードで、同じ切り方の意味が変わる

もうひとつ重要なのが、肉のグレードです。

同じ部位でも、肉の品質によって使い方は変わります。安いグレードではステーキに向かない部分でも、良い和牛なら十分に商品価値のあるステーキが取れることがあります。

たとえば、硬くなりやすい部位でも、サシの入り方や肉質によっては食感がかなり変わります。逆に、見た目にはよさそうでも、肉色が濁っていたり、乳臭さを感じたり、繊維が強かったりするものもあります。

昔の記事では、和牛経産についても触れました。黒毛和牛といってもピンキリで、経産牛のように通常より安く流通するものもあります。違法という話ではありませんが、普通の黒毛和牛として見ると、肉質の印象はかなり違う場合があります。

こういう違いを知らずに「和牛だからよい」「モモだから硬い」「ロースだから柔らかい」と決めつけると、判断を間違えます。

動画で覚えるだけでは現場では足りない

今はYouTubeなどで、肉のさばき方の動画を簡単に見ることができます。これはかなり便利です。包丁の動き、スジの引き方、部位の分け方など、文章だけでは分かりにくい部分を見られるからです。

ただ、動画のまま覚えれば現場で使えるかというと、そこは少し違います。

基本的な説明や作業の仕方に間違いがなくても、実際の肉は毎回同じではありません。肉質、グレード、脂の入り方、スジの強さ、肉の状態が違います。見た瞬間に、その肉がどういう肉なのか、どこが硬そうなのか、どう切れば食べやすくなるのかを判断する必要があります。

そのためには、ある程度時間をかけて観察するしかありません。いろいろなグレードの牛肉で、いろいろな切り方を試して、実際に食べてみる。そういう経験がないと、動画の手順だけでは分からない部分が残ります。

これはAI時代の情報収集にも少し似ています。情報は見つかります。動画もあります。説明もあります。でも、それをそのまま使えるかどうかは、自分の経験や判断が必要になります。

良い肉を買いたいなら、専門店で聞くのが一番早い

料理が趣味で、本当に良い肉を買いたいなら、僕はやはり食肉専門店でいろいろ聞いて買うのがよいと思います。

ポイントは、黒毛和牛を扱っていること、オーダーカットにある程度応じてくれること、対面販売で相談できることです。もちろん、お店の構造や衛生面の制約もあるので、カット現場を見せてもらえるとは限りません。オーダーカットも、いつでも何でも応じてもらえるわけではありません。

それでも、こちらが「こういう料理に使いたい」「柔らかめがいい」「薄切りではなくステーキにしたい」と伝えたときに、逆に店主側から質問してくれる店は信頼しやすいと思います。

肉をよく知っている人ほど、単純に「高い肉を買えばいい」とは言わないはずです。用途、予算、人数、調理方法を聞いて、その条件に合うものを選ぼうとします。

スーパーのパック肉が悪いという話ではありません。ただ、肉の切り方や部位の違いを知りたいなら、専門店で話を聞くのが一番早いです。

家庭で肉を扱うなら、どこまで知ればいいのか

ここまで書くと、肉を切るのがものすごく難しい話に見えるかもしれません。

でも、家庭で料理するだけなら、全部を覚える必要はありません。大事なのは、肉は部位ごとに性質が違うこと、ブロック肉は歩留まりを考える必要があること、繊維に逆らって切るのは基本だが万能ではないこと、このあたりを知っておくことです。

大きい肉を買うなら、安さだけを見ない。スジや脂の量を見る。切ったあとに何に使うのかを考える。硬い部分が出たらステーキにこだわらず、煮込みや薄切りに回す。

このくらいでも、かなり違います。

肉のさばき方というのは、包丁技術だけではありません。どう食べるか、どう使い切るか、どこを妥協するかを考える作業でもあります。

この記事を今リライトする意味

この元記事は、かなり昔に書いたものです。当時の僕は、肉の記事に対して「説明が足りてない」と感じたことを、そのまま勢いで書いていました。今読み返すと、言い方が少し雑なところもあります。ただ、言っている中心部分は、今でもそれほど変わっていないと思います。

肉の切り方は、きれいな一般論だけでは説明できません。部位、グレード、歩留まり、用途、売り方。そういう現場の事情を抜きにして「こう切れば正解」と言い切ると、どこかでズレます。

今のAI時代は、検索すればいくらでも答えが出ます。動画を見れば、手順も分かります。でも、本当に大事なのは、その情報の裏側にある前提を読むことです。

肉の切り方ひとつ取っても、そこには現場の判断があります。僕は、そういう部分にこそ面白さがあると思っています。

まとめ

肉のさばき方は、「繊維に逆らって切る」だけで終わる話ではありません。それは基本ですが、実際には部位、グレード、脂、スジ、歩留まり、用途によって切り方の考え方は変わります。

大きい肉は安く見えます。しかし、整形やトリミングを考えると、必ずしも得とは限りません。ブロック肉を買うなら、どれだけ使える部分が残るのか、硬い部分をどう料理するのかまで考えた方がいいです。

売る側の切り方と、自分で食べるための切り方も違います。良い部分だけを取るのは簡単でも、残った部分をどう使うかが問題になります。肉屋の仕事には、そういう現実があります。

家庭で肉を扱うなら、専門家のようにすべてを覚える必要はありません。ただ、肉は一律ではないということだけは知っておいた方がいいです。部位を見る。スジを見る。脂を見る。用途を考える。硬そうなら切り方や料理を変える。

結局、肉のさばき方で大事なのは、包丁の動かし方だけではなく、その肉をどう見て、どう食べるかを考えることなのだと思います。

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コメント

  1. maru より:

    格付けのA・B・Cといった表記は歩留り等級ですので、
    和牛以外でもAがつくことはあります。もちろん割合は少ないですが。
    A表記=和牛と勘違いされる方がいるかと思いましたので訂正させていただきました。

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