ホルスト惑星から「火星」の楽曲分析 これはいったい何調なのか? 

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ホルスト作の惑星組曲で一番目に登場する「火星」

この曲、とても印象的でカッコいい。

ええ、僕もホルストの火星、大好きです。初っ端からすごいインパクトでグイグイ迫ってくる感じが何とも言えない。半分寝ている状態で聴いていると、一発で目が覚めるという楽曲(笑)ただ、調性感覚がイマイチつかみにくい、ハッキリしない難しい楽曲だと思います。

 

 

そうですね。何調かと聞かれて、即答できるような楽曲じゃないわ。

エンディングのサウンドだけに注目すれば Gディミニッシュ で間違いないけど。

(いや、Gdim ではないかも。)

Cのオルタード7かな? なんかハッキリしない。。

よく聴くと途中でいろいろ調が混じっているように聴こえるんだよね。僕には一聴しただけでは何の音を重ねているのか、正直言ってよく分からないんだよ。今回は時間をかけて、このサウンドの秘密みたいなものを自分なりに理解したいと思ってる。

まずは、ホルストが惑星という組曲を構想した時代背景から探って、それから影響を受けたであろう作曲家をたどってみて、最後に実際の楽曲を見ていくという流れで考えてみたい。

なぜ、そんな面倒くさい方法でこの火星という楽曲を理解しなきゃいけないの?

もっと簡単に音の使い方を直接調べていけばいいんじゃないの?

 

僕はそういう考え方ではダメだと思うよ。理由は 「物事を深く知る」 という以外にない。究極的には、なぜこの楽曲を発想したか? ということに行き着く。なぜこの音を重ねることを思いついたか? なぜリズムは5拍子なのか? などなど、作曲に関わる源というか動機、衝動、考え方を知る、もしくは推理することは音楽家としての自分を成長させるためには必要なことだと思うから。

もし、君が作曲に関して、いわゆる 「チート」 を求めているなら、こんな面倒な作業などすっ飛ばして、「パクる」 というか単純にマネしちゃえばいい。気に入ったフレーズや音使い、音の重ね方などを自分の楽曲にそのまま入れちゃえばいい。それだけで聴く人を「お!」と思わせることができるかもしれない。

だけど、それだけじゃやっぱり深みがない。人によっては無駄なことだと思うかも知れないけど、僕は「深み」が欲しい。音楽史を知ることはただ単に歴史を知るだけではなくて、いろいろな事柄がつながりを持って、そして現在につながっていることを理解したいわけ。

それが自分のインテリジェンスを鍛えることにもつながる。つまりは自分自身を豊かにするということになると思います。

いつもながら前置きがながくなりましたが、さっそくホルストという人物の生きた時代から分析をはじめましょう。

ホルストの火星を解くカギ それはペトルーシュカ和音ではないか?

ペトルーシュカ和音ってどんな和音なんですか?

簡単に言っちゃえば、増4度 の関係にある長三和音、すなわちメジャートライアドを 増4度 ずらして重ねたサウンドのことです。この言葉は僕も調べるまで知りませんでした。恥ずかしいですね。

たぶんポピュラー音楽ばっかりやってると絶対に出会えない言葉の一つだと思います。ホルストが生きた時代について、同じくらいの時代に活躍した作曲家について調べていく過程で出会いました。

同時代の作曲家たちには、ドビュッシー、ラヴェル、ストラビンスキー など、現代音楽に近い人たちがいます。また無調音楽で有名なシェーンベルクの一派もこの時代です。僕は「調がはっきりわからない」という視点から、「多調」をキーワードとしてたどり着きました。

ペトルーシュカはストラビンスキーの作品名ですが、僕はラベルの「水の戯れ」のほうが、この和音のイメージをつかみやすいと感じます。

詳しくは下記のサイトを参考にすると良いです。個人的には大変貴重な資料ではないかと思います。

雑記・その10 【ペトルーシュカ和音】

なんでペトルーシュカ和音がホルスト作の火星をひも解くカギになるの?

それは冒頭のサウンドをよく聴けば分かるはずです。ギターで音を拾っていくと、明らかにC♯メジャートライアドのサウンドがGリディアンサウンドにかぶっているのが分かる。

 

バルトークも同じような時代の作曲家のひとりなんですが、もしかしたら彼の「中心軸システム」というのも ホルストに影響を与えているかもしれません。

あのーリディアンサウンドがどういうサウンドなのか、よく分からないんだけど?

 

はい、ではリディアンサウンドがよく分からない方のために参考音源を貼っておきます。

 

この他にもいろいろ参考音源があります。

単純なメジャートライアドに ♯4度 をプラスするだけのサウンドです。あるいは ♯11 を付けたテンションコードと考えてもいい。(厳密にいうと違いますが、僕は問題ないと思う)

最初は単純なディミニッシュサウンドかと思ったが、じつは多調だった ホルストの火星

この火星は、いくつかの調が混じっていると感じますが、全編を通して主要な役割を持つ音があります。それは G です。途中でいろいろ変わるんだけど、メインテーマでは G と C♯ による増4度の響きがとても印象的。

普通はポピュラーの世界で増4度の響きというと、何のコード、響きを思い浮かべますか?

僕の場合は、増4度=♭5度 ですので、ハーフディミニッシュ 、短3度の積み重ねであるディミニッシュ系を思い浮かべます。なぜならダークな感じのするサウンドだから。

でもこの火星では明らかにリディアンと思われる響きの箇所があります。冒頭の♭5のサウンド聴くと、ダークな感じからマイナー調に感じますが、サウンドが進につれ、じつはGリディアンサウンドだということが分かります。

んで、徐々に盛り上がっていって最初の最高点に達するところで C に転調します。たぶんここもリディアンだと思います。サウンドがよく聴き取れないのではっきりしないんだけど、ホルンとかトランペットなどのフレーズがどうもそれっぽい感じがする。

ちなみにこの火星、何調か調べると 「ハ長調」 ってあるのよね。現段階の僕には、なぜハ長調なのか? よく分かりません(笑)エンディングのサウンドはGdimなんだけど、Cトライアドに♭9をくっつけるとGdimと同じようなサウンドにはなりますね。

つづく

多調をどう理解すればいいんだろうか?

火星の冒頭における印象的なフレーズ。曲の開始から1分20秒ほど経過したところで C に転調(転調と言っていいかどうかすら分からないけれども)してさらに力強くなるのですが、このCに変わるまでの1分20秒の間にサウンドが少し変化しているのが分かります。

上手く説明するのが難しいのですが、Gを基音として、増4度上のC♯、それから 一瞬 G♯△ そして Gリディアンの響きとなってCに転調という流れ。

G→D→C♯ というのが基本的モチーフなんですが、C♯の時は、長6度→短6度 というサウンド、G♯の時はGメジャーペンタトニックのサウンドがします。

度数、インターバルをどう考えるかというのは、基音の取り方でどんなふうにでも変わります。上記の解釈は僕なりの感じ方、受け取り方、考え方なので人によっては解釈が大きく変わることに留意してください。

上に書いた一連のサウンドの流れ、どう理解すればいいのか?

GからC♯というのは、この火星の冒頭部分では ディミニッシュの短3度転回 という理解でいい。フレーズというかモチーフの展開もモロにそう聴こえます。一瞬聴こえる G♯△サウンドは、 C♯dim をG♯のドミナントの代理コードとして、半音上から解決させているサウンドです。

本当に短い時間なんですが、トライトーンを上手く解決させて巧みに聴かせているのが分かります。理論的に言うと ドミナントモーション になる。増四減五つまりトライトーンという音程の解決には表と裏の二通りあって、この場合は 裏 というわけです。

つづく

第二のモチーフ出現 このモチーフ、フレーズをどう分析するか?

さて、あなたにとって需要があるかどうか分からないけど、引き続き火星のフレーズ解釈を行います(笑)

C が鳴り響く中、第二のフレーズが繰り返されます。このモチーフは楽曲後半においても繰り返されるため、楽曲中で重要なものだと位置付けられます。一応、耳コピしたんですが、正確にトレースするためにスコアを参照したいと思います。

使われている楽器を特定するために以下の動画を参考音源としました。

 

 

この動画から察すると、問題の第二モチーフは、トロンボーン と、トランペット によるフレーズのようです。どうして楽器を特定する必要があるのか? それはスコアの見方と深く関係しています。

管弦楽 というのは文字通り、管楽器と弦楽器がいっしょに演奏します。それぞれのパートをパート別の楽譜で追っているはずなのですが、僕らが見るのは 総譜 というやつです。全部のパートが書かれている楽譜ですね。

僕はオーケストラの経験がまったくない(ブラスバンドの経験もない)ので、総譜の見方が分からないわけで、いったいこの問題のフレーズがどこに書かれているのかさえ分からない。しかし総譜の最初に楽器の指定が書かれているはずであり、その段を追っていけば問題のフレーズが分かるという仕組みになっています。

と、ここであることに気が付きました。「楽譜は有料?」 そうなんです、総譜は有料みたいですね。おそらくどこかのサイトで無料入手できるはずなんですが、それが分からないw

というわけで、上の シャルル デュトワ 演奏動画の秒数でフレーズを指定してみます。1分40秒で C が鳴り響きます。その直後、1分47秒付近からのフレーズが第二主題の登場となります。

最初はトロンボーン、続いてトランペットの箇所。

僕の耳によるコピーした音列を記すと以下のようになります。トロンボーンのところですね。

G♯ーGーF♯ーG-G♯ーB♭ーC-C♯ーE♭ーD

ここでCを基音というか主音として、この音列を考えてみましょう。

考え方、分析方法は 「メロディの主役とは?」 という考え方です。参考動画は以下です。

 

簡単に説明すると、楽曲の強拍、弱拍とメロディの関係です。強拍にコードトーン、弱拍にノンコードトーンを置くと違和感なく聴こえるという理論です。感覚的には分かっていることなんですが、メロディには音価だけじゃなくて、強拍弱拍の違いによる主役のトーンの引き立て方があるわけです。

たとえばクロマティック的なメロディラインにおいても、コード感がより出るやり方と、そうじゃない方のものがあるというように、なぜそうなるか? ってことを解説しています。(半音階を多用したメロディラインは下手をすると、ただの音の羅列に聴こえます)

このシリーズの動画はメロディ分析やメロディライティングにとても役立つ内容だと思います。サウンドと楽譜だけでだいたいは理解できるはず。ジャズのビバップフレーズが分析対象ではあるけれど、音楽的なメロディラインというものの核心部分はみんな同じです。

もうひとつ、参考動画です。こちらはそのものずばりで、ドミナントコードにおけるクロマチックの用例について。ギターにオクターバーか何かをかけているのでサウンドが変に感じるかもしれませんが(笑)内容はよく理解できますね。

 

 

 

さて、上記を踏まえてホルストの火星の第二の主題を聴くと、同じ型のリズムで音がつながっているように聴こえます。赤色文字は僕が調性を感じる音たち。僕にはどうもこれらの音がこのフレーズの主役のように聴こえます。

G♯ーGーF♯ーG-G♯B♭C-C♯ーE♭ーD

これは紛れもない F♯のホールトーンスケールです。つまりこの部分のキーである C に対しての 増4度上にできるホールトーンスケールを基にこの主題は作られていると言えると思います。

このあと、まだまだ面白いフレーズが混然一体となって続きます。

つづく

1800年代後半から20世紀初頭にかけて興味深い音楽が現れたのはなぜだ?

この「火星」が初演されたのは確か1918年か1920年です。したがって楽曲の構想は1916年ごろにはすでにあったと考えていいです。

西洋の音楽年表を確認してみると、1850年ごろから音楽の世界において新しい時代が始まっているような気がしてきます。

ドビュッシーやラヴェルなどの印象派と呼ばれる作曲家が活躍するのもこの時代。音楽史的には近代音楽と呼ばれている。僕が好きな音楽もこの時代に多い気がします。

ちょっと余談ですが、火星繋がりで興味深い記事がありましたので紹介します。フェンダーのオフィシャルサイトからです。

“音楽に潜む悪魔”と呼ばれたコードの歴史

Holst、Jimi Hendrix、そしてBlack Sabbathを魅了した、ヘヴィメタルの代名詞トライトーンの不穏な響き

火星のリディアンの響きにある増4度について、セブンスコードにおけるトライトーンという観点から書かれた記事ですね。けっこうおもしろいです。

 

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